Gitを5年間教える側にまわって気付いたこと
Git Advent Calendar 2016 - Qiita の記事になります。 本記事では自分がGitを教えたことで気付いたことをまとめます。 ゆえに「Gitに入門したい人」に向けたものではありません。が、多少のエントリーポイントは示しますので参考になるかとは思います。 コミュニティ、有償セミナーで5年間Gitを中心としたバージョン管理システムを教えてきた経験の話です。 ただ、Git, GitHubなどのデベロッパーではないので、彼等の思想とは異なるかもしれませんが、そこは一人のGitの講師として見てもらえれば。
命名の混乱とユーザー層
Gitのコマンドは名前から理解しにくいことで有名です。 git rebase --intractive
などは典型です。
例えば、branch という単語が示す内容はあまりにも違っています。
VCS毎に branch の意味が違うことも難しくしていますが、加えてGitの場合には branch (枝)というメタファーと実態の乖離が大きく、理解するまで時間がかかったという人もいるようです。
(ちなみにMercurialでは同等機能は bookmark となっており、Mercurialはbranch(枝)とbookmark(しおり)の両方で管理することができます)
そして、ユーザー層?スキーム?が様々であるため、GUIツールではあまり対応がとれないような言葉になっていることもあります。 GUIツールで困ったときに違う単語で調べる必要があり、加えてGitのコアユーザーはコマンドラインで使うため、GUIツールのトラブルシューティング情報は少なめになっています。 もちろんこれらを乗り越える人もいますが、自分の経験ではあまりいませんでした。 乗り越えないままに使うことはできるけど。。。という感じでしょうか。 ので、トラブルが起きたときにはGitで解決をせずに別の方法(ファイルのバックアップをどこかからもってきたり、新しくリポジトリをcloneしなおしてから、コピペしたりすること)で解決している人もたくさんいます。 別にそれ自体は悪くないですが、Gitの学習という意味では大きな壁になっています。
そういった意味で、自分が大切にしているのは Git公式の Pro Git というページです。 Git - Book
このページを読んで理解できるのであれば、それなりにプログラミングや、VCSに精通しているとおもいます。 ですが、なんとなくで使える程度の人や、パパっとワークフローがわかればいい人にはちんぷんかんぷんなページだと思います。 ここにある概念を大切にしながらGitを使う開発プロセスのトレードオフを伝えることが大切だと思っています。
Gitの概念を日本語でうまく表現している書籍は次の2冊だと思います。出版時期は少々古いのですが、あまり古びた内容でもありません。
- 作者: 濱野純(Junio C Hamano)
- 出版社/メーカー: 秀和システム
- 発売日: 2009/09/24
- メディア: 単行本
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- 作者: Jon Loeliger,吉藤英明(監訳),本間雅洋,渡邉健太郎,浜本階生
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2010/02/19
- メディア: 大型本
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バージョン管理、統合の戦略が広まっていない
Gitを教えていていつもぶつかるのは、そもそもSCM(Software Configuration Management)の戦略が知識としてもあまり広まっていないということです。 GitはSCMを支える重要な要素ですし、様々な戦略を取れるようにGit自身は多数の機能を提供しています。 この何年かで、「ローカルでGitを使うときの作法」「Pull Requestによるレビュープロセスの確立」「Infrastructure as a Code」といった知見は広まってきましたが、バージョン管理を活用したチームやプロダクトのプロセス品質を上げるという方向についての議論はあまりされていません。 というよりは、ずっと課題だと思う(ソフトウェア構成管理という単語がずっと使われている事情からそう思う)わけですが、流れとしては「SCMの戦略」よりも「SCMを中心として少しでもよくなってきている開発の改善力を中心にもっと範囲を広げよう」という感じだと見ています。 大切だと思いますし、そうすることで無駄が減る(部分最適をする前に全体を見ることが出来ることによって余計なことをしないで済む)こともあります。 ですが、Gitを活用したSCMの戦略が貧困なままでは、ビジネスのボトルネックになるばかりです。
一例としては、 Jenkins + GitによるIntegrated Workflow + Gateway CheckInを実践することができます。
www.slideshare.net
また、SCMという広い意味では次も参考になります。
「何を編集しやすく、何を実行しやすく、何を統合しやすく、何をレビューしやすく、何を組合せやすく、何をスケールアウトしやすく」それぞれのトレードオフや理想を達成するためにGitを利用することは多くの場面で大切です。
ただ、そういったSCMの戦略がわかっていない、関心がない人もたくさんいますし、必要ではない人もいます。 (もちろんわかっている人もたくさんいますが、割合の話ですね)
まとめ
- Gitの概念、コマンドを覚えるのは苦労しやすいポイントであり、反復練習か、Gitを使わないという選択肢を見つける必要がありそう。そして、それに耐えられない人がGitをなかなか使い始められなかったり、Git使っています() みたいな状態になってしまっている。
- Gitを使うことで、どのような理想的な開発プロセスにしたいのか。というSCMの戦略に関心がない人や、そもそも知識が共有されていない現状があることを踏まえて、Gitの使い方を教える必要がある。
自分の教えかたを2,3年毎に大きく変化させることでいくつか気付きがありましたが、大きいこの2つについて紹介しました。 では、これらをどうするのか? という話ですが、前者は Gitカルタ という形でコマンドをさわらずにGitの操作をイメージで掴めるようなゲームとして教えています。
後者については、事例をはさみながら教えていますが、いまのところGit Boot Camp Premiumというセミナーでは最初のほうだけを教えるに留まっています。 ので、更に拡充して2017年はコミュニティ、有償セミナーを開催しようと思います。おそらく別枠で開催する感じがいいかなぁと。
おまけ
弊社、基盤チームではGitからの脱却を目指して新しいVCSの設計を始めています。いつ完成するのかはわかりません。いろいろ不満なのでね。。。