うさぎ組

ソフトウェア開発、チームによる製品開発、アジャイル、ソフトウェアテスト

カンファレンスを最高にするストーリーとスルーライン。もしくはアレグザンダー理論からみるカンファレンスの美しさ #RSGT2020

RSGT2020をこじらせた人の考察エントリです。

プレゼンテーションにおいて大切なことはストーリーがあること。そして全体を通したテーマ(スルーライン)をつくることと言われています。*1 これで相手に自分を理解してもらいやすくなります。 人は古代からストーリーに惹かれるし、長時間の話の末に、なにか心をゆさぶられるのは、話がつながっているからだとかんじています。 でも、それを拡張してカンファレンスでできたら?たしかにカンファレンスにテーマを設定しているものはあるけど、全体をとおしてまさに「スルーライン」を感じられるストーリーがいきづくようなカンファレンスは?

今回のRegional Scrum Gathering Tokyo 2020は1日目のKeynoteからストーリーがはじまり、全体を通してスルーラインをかんじられるものでした。 私は3日間ずっとわくわくしていて、こんなにどの時間帯でも学びを得たことはなかったです。大抵のイベントはおもしろい話はあれども、ずっとわくわくするということはできない。それはそれでいいのかもしれないですけど、でもこんな体験はなかなかできなかった。

このエントリーでは同イベントがなぜ私をこんなに夢中にさせたのかを考察します。

目次

全体的な感想

同イベントは2019までの良さのおおくをひきつぎつつも、私にとって最高のストーリーをかんじさせてくれました。 すくなくとも、2018, 2019までのKeynoteというのは自分達の体験の話をすることがおおく、それらはとても心にひびき、示唆にとむものでした。ただ、わたしのようなアジャイルこじらせた人からすると、物足りないのも事実でした。具体的な体験もよいのですが、そこから得られるもっと法則やなにかについて聞きたし、イベント全体をとおして咀嚼していくような楽しみがなかったからです。私はなんらかの法則に興味があり、そういったものを語れる、咀嚼できる場をつねにもとめています。

今回のJames O Coplien による十牛図をつかったScrumへの向き合いを見つめ直すという話はまさに、様々な人にたいし「あなたはどこにいるのか、なにをみているのか、なにがみえていてい、なにがみえていないのか」などといったことをソフトウェア開発においてあてはめてみようというものでした。このKeynoteはパタンの具体例をはなすのではなくてパタンを雄弁に語るストーリーとして受け取ることができて、後に続くセッションの聞きかた、参加の仕方、思考にたいして一石を投じるものだったとおもいます。

1つの料理がよかったのではなく、フルコース料理のような感想をいだかせてくれたのがRSGT2020でした。

以前から運営がいっていたこと

運営の id:kawaguti さんや id:miholovesq さんがよくいっていましたが RSGTのセッション採択はどのように決まるのか - kawaguti’s diary によくまとまっています。 セッション採択では次の流れできまっているようです。

  • Like機能による投票
  • Likeはあくまで一つの指標
  • Likeが少なくても落選にしない
  • 一軍でカンファレンスの骨格を作る
  • テーマを集めてトラックを形成する
  • 全体の流れをみながら、あいている枠に実行委員推薦のセッションを入れていく
  • 参加者のペルソナを想定してウォークスルーをする
  • そして寝かす!
  • 実は手間のかかる作業はここから
  • ここまででセッションスケジュールの作業は完了。最終チケット販売へ
  • 現在プロポーザル募集中のカンファレンスもあります!

ここからわかるように、テーマそしてウォークスルーと流れを意識されてつくられていることがよくわかります。 ここにKeynoteとして問いというものが今回はくみあわさったので、私にとって非常に響くものになったのではないかなぁとおもっています。

15の幾何学的特性による考察

ここからは同イベントをざっくりとですが、クリストファーアレグザンダーによる15の幾何学的特性で分析してみたいとおもいます。なおこれは正しさはまったくありません。独断と偏見です。

  1. スケールの段階性
  2. 力強いセンター
  3. 境界
  4. 交互反復
  5. 正の空間
  6. 良い形
  7. 局所的に現れるシンメントリー
  8. 深い相互結合と両義性
  9. 対比
  10. 段階的変容

  11. 粗っぽさ
  12. 共鳴
  13. 簡潔さと静謐さ
  14. 不可分であること

ストーリーとスルーラインの美しさ

James O Coplien の十牛図をつかったScrum PatternのKeynoteでは自分達が何を求めて、何を見つめて、何処へ行き、何をして生きるのかというような話だったとおもいます。初日の最初にして、歴史でもなく、プラクティスでもなく、自分と世界を認識することから始まりました。今回のRSGTではこれこそが「力強いセンター」としてのスルーラインになっています。「あなたは何で、世界をどう捉えているのか」

そこそこScrumの人気がでてきたからこそでてくる「このやり方であっているのか?」「Scrumにこだわっているわけではないけど」「Scrumってなんだ」「アジャイルな組織になることにどう立ち向かうんだ」というそれぞれの悩みを包含するように話すのは難しいと私はかんじてしまいます。ですが、Coplienは十牛図をつかって具体的なところは個々の事象やスクラムパタンの話をつかいながらうまくストーリーをつむいでいました。

翌日のSahotaのKeynoteはほとんど聞けなかったのですが、ほんのすこしだけきけたところや、スライド、参加者の話をきくと、やはり前日からつながっています。「あなたは何で、世界をどう捉えているのか」。アジャイル組織におけるマネージャーというのも、「自律性の高い組織にはマネージャーは不要」「ほんとうにそう?」という悩みをバランスよくなんて言葉をつかわずに、XY理論をつかって組織の部分毎の立ち位置を丁寧に具体的なストーリーとしてつむいでいました。

最終日の高橋さん(かっぱたん)のKeynoteは1人のエンジニアとしての生い立ちという強いストーリーがありながら、そこにはやはり「あなたは何で、世界をどう捉えているのか」という話でした。とくに「お前はなにを成すのか」「その道程を楽しむんだ」という印象がつよかったというのもあります。とても具体的でありながら、つたえたいのメッセージは自分がつながっていくとかそういったはなしでした。NOT ALONEという結びに感動した人もおおいのではないでしょうか。

CopeやSahotaはさすがで、自分の話をしていません。ストーリーをはなすときに自分の話はいくらでもおもしろくできますが、コミュニティや業界にたいする問いにおいて90分間のストーリーで人をひきつけるのはさすがです。

我田引水な感じですが、その後のkyon_mmの「チームの再定義 -進化論とアジャイル-」や TAKAKING22の「Team-Based Team - 会社を越えるチーム -」も「あなたは何で、世界をどう捉えているのか」というスルーラインをたもったまま、自分達がどのようにチーム、組織を見つめているのか、そして見つめられているのかという話をしました。kyon_mmもTAKAKING22もよくもわるくも自分のストーリーをはなしています。

これは一例なのですが、「あなたは何で、世界をどう捉えているのか」という生きるうえでの重要な問いといってもいいものを3日間かけて咀嚼できていくというすばらしい体験がそこにはありました。

このスルーラインが「力強いセンター」としていきづいており、もちろん他のテーマもありましたが、それらの数はすくないものにみえます。 独断と偏見では14セッションがこのスルーラインにひっかかっていて、他は4セッションが2テーマ、1セッションがいくつかのテーマにみえます。この段階的に力強さがかわるのは「力強いセンター」とともに「スケールの段階性」が現われているなぁとおもいました。典型的な美しさにみえます。

また、スルーラインが3日間にわたって咀嚼できるというのは、「あなたは何で、世界をどう捉えているのか」という問いを媒介にして「事例」と「体験」の「交互反復」が起きていました。 「力強いセンター」が別の側面で「交互反復」をもっているというのはよくみられるくみあわせです。

セッション時間と数の美しさ

Keynoteが90分、45分セッション、20分セッション、100分ワークショップという構成でした。「段階的変容」と「局所的に現れるシンメントリー」とみるのがいいんでしょうかね。よさそうです。

ただ各セッションの時間のスケールにあわせたセッション数でいうと「スケールの段階性」という美しさはありません。「大きいものほど数が少なく、小さいものほど数がおおい。そこにもおなじようなスケールがある」とはなっていないことがわかります。時間配分に美しさをかんじるようなカンファレンスはまだ見たことがないのですが、実現されたときにどうなるんでしょうね。

  • Day1
    • 90分 x 1
    • 45分 x 6
    • 20分 x 4
    • 100分 x 2
  • Day2
    • 90分 x 1
    • 45分 x 8
    • 20分 x 8
    • 100分 x 0
  • Day3
    • 90分 x 1
    • 30分 x 36

廊下という自由

廊下で会話が創発される感じはまさに「粗っぽさ」からおきているように見えます。目的も方法も時間も規定されていない。そのためのスタンディングテーブル、あたたかいコーヒー、水などです。 これにより、人によってSlackをもてたり、あたらしくつながったり、自分のセッションへのフィードバックをもらったり、仲間と考察をしたりと様々な時間をすごせるようになっています。またあたらしいストーリーがうまれる場でもあります。これは同イベントの感想ブログでも多く言及されており、粗っぽい場をつくることにより個々人の満足度がおおきく向上しています。いきいきとするんですね。

各セッションの部屋の広さ

朝のKeynoteでは400名、午後から各セッションでは200名、200名、60名、というのを2回くりかえしてからの、会場全体という最も全体をつかった場づくり。 1日目、2日目では、時間経過とともに「段階的スケール」をかんじさせる場でありながら、最終日には全体性をかんじさせる場をつくるというのが最大とおもっていた部分がぜんぶつながって本当の全体をみせるという形につながっています。

この時間経過とともに場の部分と全体をいききする感じがいきいきとするんでしょうね。

考察が不足しているもの

考察してみたけど特性がわからなかったものはいくつかあります。これは私のスキル不足から達成、未達成にかかわらずその狙いと美しさの関係がわかっていません。

  • Coach's Clinic
  • Open Space Technology
  • Open Proposal
  • Advent Calendar
  • Sponsor Booth
  • Networking Party
  • Speaker's Dinner
  • 各種食事

考察に力つきたともいいます。

最後に

もし可能ならこのようないきいきとした場というのをまたつくってみたいとおもいました。 運営からしたら意図とちがうとか、いろいろアレな解釈されてもこまるとかあるかもとおもいましたが、このカンファレンスの1ファンとして投稿させていただくにいたりました。こわかったので、運営にも念のため確認をさせていただいたのですが、快諾いただけました。ありがとうございます! また来年もたのしめたらいいなとおもいます。

パターン、Wiki、XP ~時を超えた創造の原則 (WEB+DB PRESS plusシリーズ)

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*1:TED TALKSでよく話題になっています

TED TALKS スーパープレゼンを学ぶTED公式ガイド